犬の散歩と自己肯定感

最近、気づいたことがありました。 

それは「人並み」のラインから脱落しないように、人目ばかり気にして生きていると、健全な自己肯定感は育ちにくく、他者と向き合う力も弱くなる……ということ。

人って自分を受け止める力が薄いと「他人の目」を通して自分の行動を確認し、ジャッジする傾向が強くなりますよね。 

私もそういう時期があったからよく分かるけど、人が「OK」を出してくれないと不安で「私は私」という感覚が弱い。

一つ前のコラムで書きましたが最近、私は知人の「問題あり」なワンコのお散歩トレーニングをしております。

その家の子になって以来、散歩してもらう機会がなかったワンコは最初、ワガママし放題でしたが1カ月ほどで穏やかになり、今は手を焼くことも少なくなりました。

飼い主さんにも「もう大丈夫だからお散歩してくださいね~」と促したんですけど、なんだかんだ理由をつけてやりたがらない。そこで事情を聞いてみたら、問題は犬ではなく彼女の側に……。

彼女は言うことを聞かない犬に振り回され、飼い犬を制御できずにいる姿を人に見られたくないし、そういう自分の不甲斐なさに直面するのも嫌だったらしい。(別に不甲斐なくはないけどね)

もー!そんなこと言ってたら犬の散歩なんてできない(笑)。

完璧に訓練された警察犬や盲導犬しか散歩できないよー!

それに飼い主の務めは犬を制御して従わせることではなく、お散歩によって犬に喜びを与え、満足させることだから!

彼女は子供の頃から親に「お前は何もちゃんとできない」と言われて育ち、人並みであろうと頑張ってきたんですって。

――私から見たその人は仕事はプロフェッショナルだし、気配りもある真っ当な社会人ですが。

彼女の言う「人並み」は「普通に結婚して家庭をもって地域社会に根差して……」的な親御さん由来のもの。もう親の時代とは違うし、誰かが決めた「人並み」に従って生きても幸せになれる保証はないのが人生ってもの。

「普通」とか「人並み」という呪縛はただの足枷だから、捨てるが勝ちだと思うのです。

あ、話がそれましたね。

そんなわけでリードを握る彼女にワンコが「ヤダ。ヤダもーん」と歯向かい(実態はただ甘えている)、想定外の行動に出るたびに、彼女の頭の中では「お前はこんなこともちゃんとできないのか」と昔言われた言葉が反響し、そんな自分と直面したくなくないがゆえにお散歩を避け、ワンコとの関係も微妙になっていたのでした。

ワンコが彼女に反抗する理由も判明。

彼女は犬と関わっている時も「私は犬をちゃんと扱えているか、いないか」を気にしていて、自分自身に意識が向いているから、犬としては不満。「ママ、全然ぼくのこと見てないじゃん!都合のいい良い子でいてほしいだけじゃん!」と。それで吠えたりもする。

それがまたダメだしされてる感満載で「もう嫌!」となっていたようです、飼い主さんは。

その「からくり」をご説明して、自分をもっと認めて大切にすることと、

犬は(甘えも含めて)自分を受け止めて尊重してくれる人に信頼感や忠義心をもつから、日々のお散歩につきあってあげてください

と、伝えたところ、毎晩お仕事のあとに散歩にいくようになったそう。

数日ぶりに散歩しにいったら、ビビりだったワンコがぐいぐいリードを引いて歩き、すれ違う他の犬に挨拶するまでになっていた。すごいじゃないか、君!普通の犬じゃん!

彼女はまだ、熱心に地面を嗅ぎまわる犬につきあうのは「面倒くさい」と感じるそうですが、そのうちあのワンコのように「意味があるんだかないんだか分からないけど心躍ること」を遠慮なく楽しめるようになるのではないかと思います。

あのマイペースで遊び好きなワンコは、ストイックに生きてきた彼女に「もっと楽しんでいいんだよ」と教えにきたのかもしれません。

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