会社を辞めるか残るかの決断

最近、会社を辞めるか、とどまるか、迷っていらっしゃる方がとても多いです。

経団連も終身雇用で全員最後まで面倒みるのは無理です、と従来の日本型雇用システムの維持に白旗を掲げましたし、コロナで働き方自体も変わりました。

これからは大企業なら安泰……ではなく、必要なときに必要な変化を遂げられる組織が強い時代なのかもしれません。

――しかしながら、有名企業信仰は今もあるし、属している企業の社会的信用度が高ければ高いほど、そこを辞める決断には勇気がいります。

名刺の力、社名の力ってやっぱり大きくて、私も某大企業を辞めた時に「社名入りの名刺を持っていない心もとなさ」に、風が吹けば飛ばされそうな「野良の子猫な気分」を味わいました。社名入りの名刺を持ってさえいれば開く“ 自動ドア” が開かなくて、いちいち「お願いします。開けてください」と頼まないといけない、あの心細さよ!

ぶっちゃけて言うと、会社が補ってくれていた社会的信用力と環境を、自力で作っていくのは結構、大変です。最初は――前向きな言い方をすれば――心が鍛えられる出来事だらけだ!

だから、覚悟もないのに「風の時代だし」と会社を辞めることには賛成しかねますけど、時代の転換期だし、個人の魂のタイミングもある。

「あ、ここにいても未来はない。この船から降りるなら今だ」とはっきり感じる瞬間がやってきたら、それはもう辞め時なのだと思います。

私の場合は――もう20年ほど前の話ですが――属していた組織のトップに「介護なんて、主婦のやる仕事だから、産業として発展する可能性はない」と言われたときがそうでした。

私は当時、経営にも関わるセクションにいて、今後の経済動向、市場動向の予測も業務のうち。

それであるときトップから「今後、会社がマンパワーとお金を注ぐべき、次に発展する新たな産業を探せ」と指令がきて、当時は黎明期だった介護産業を推しました。業界の伸び代が大きく、私のいた企業がお手伝いできる仕事がたくさんあったからです。

ところが「そんなのは主婦がやることだから、産業としては発展しない」と、トップは一蹴。その返答を私に代わってプレゼンした先輩から聞いたとき、辞めて好きな仕事をしようか、安定をとって会社に残ろうかと迷っていた気持ちが静かになり、退社の心が決まりました。

そのとき、とてもはっきり疑いの余地なく分かったのです。未来があるのはここじゃない、と。

だって、これから日本は少子高齢化だし、共働きが当たり前の時代になっていくのに、介護は主婦の仕事って! 手元のデータを見て、ちょっと想像力を働かせれば、家族だけで介護をするのは到底無理な時代が来るって分かるでしょ!? 新聞、読んでますか!?

それまでも、当時の経営陣の先見性の無さに不安を覚えることは多々あったのですが、ここまで無いとは……と、心底ガッカリしたんですよねー。

ああ、これでまた、うちの会社は「いずれ大木となる産業が苗の段階から関わっておいて、システム構築から何から丸ごとかっさらっていく勝ち組」にはなれず、いつものように「産業が育ち切ってから、落ちてくる枝葉を競合他社と必死で取り合うフォロワー」になるんだなと、げんなりすると同時に、労多くて功少なく、実働部隊の社員のやる気が削がれる悪循環の中で働くのは嫌だと思いました。

決定権を持つリーダーに、先を見る目と決断力がないと、下の人間は常に後手後手の対応に追われて疲弊するじゃない? 私、そういうのが昔から嫌いなんです。ダメなシステムの中で頑張っても結果はたかが知れてるし、すり減るだけだもの。

もちろん辞表を出す前に、未来のトップの変遷も考えてみました。でも――合併や統廃合がなければ――先見性とリーダーの器が備わっている人がトップの座に就く可能性があるのは……12年以上先???

その頃には、私の若さもやる気も体力もすっかり擦り切れ、今の自分にはふがいなく見える諸先輩方と同じく諦めの境地になっているよね……と容易に想像できたので、すぐ独立の準備を始めました。

1年ぐらいずっと辞めるか、転職するか、独立するかと悩み続けていたのに、最終的な決断は一瞬。「未来の組織図」もその日のうちに考えたから、ほんとに数時間のこと。

未知の領域に踏み出す不安や恐怖はもちろんあって、大変さは覚悟しましたけど、それでも「会社に残る未来」より「未知な世界に進む未来」の方がキラキラしていて楽しそうに見えたのです――そして、実際にそうでした。

だから、会社を辞めるかどうか迷っている人は、自分の気持ちを誤魔化さず、とことん自分に正直でいるといいと思うんです。徹底的に自分軸で。

すると、何かのきっかけでパッと心が決まる瞬間が来ると思いますーー辞めるにしても残るにしても。

次のフェーズに進む時に「自分で決めた」と納得できていると、新しい世界に進むことは「怖い」ではなく「楽しい」ことになりますよ。

© 2017‐2021 KAORU.